福岡高等裁判所 昭和30年(う)1788号 判決 1956年3月24日
控訴人 被告人 福永一臣 外八名
熊本地方検察庁検察官
検察官 納富恒憲 中野和夫
主文
被告人恒松良一郎、同三芳知平、同犬童俊一、同泉万次郎の本件控訴並びに検察官の被告人田中典次、同吉田富士夫関係の本件控訴はいづれもこれを棄却する。
原判決中被告人福永一臣、同浜砂種光、同犬童俊一、同深野七郎、同泉万次郎、同恒松良一郎の各有罪部分及び無罪部分並びに被告人田中典次、同吉田富士夫の各有罪部分をいづれも破棄する。
被告人福永一臣を懲役八月に、
被告人浜砂種光を懲役十月に、
被告人田中典次を懲役十月に、
被告人吉田富士夫を懲役六月に、
被告人犬童俊一を懲役八月に、
被告人深野七郎を懲役八月に、
被告人泉万次郎を懲役八月に、
被告人恒松良一郎を懲役参月に、
各処する。
但し被告人浜砂種光を除き、被告人福永一臣に対し本裁判が確定した日から一年間、其の余の被告人等に対し同じく各二年間いづれも右刑の執行を猶予する。
被告人吉田富士夫関係について押収されている証第一号の現金拾万円(千円紙幣百枚)は同被告人からこれを没収する。
被告人吉田富士夫及び被告人田中典次の両名から金参万円を、被告人田中典次から金壱万五千円を、
被告人犬童俊一から金四千円を、被告人深野七郎及び被告人泉万次郎の両名から金六万円を、被告人深野七郎から金五万六千円を、被告人泉万次郎から金参万四千円を各追徴する。
訴訟費用は原審における全部並びに当審において証人竹田珍珠、同中村恵三、同大石文夫、同深野七郎に各支給した分は被告人福永一臣の負担とする。
本件公訴事実中被告人福永一臣は被告人浜砂種光と共謀の上、一、(一)昭和二十八年四月一日頃人吉市被告人犬童俊一方別宅において同人に対し投票取纒方を依頼し、投票並投票取纒運動の報酬として金拾六万円を、(二)同日頃同所において被告人恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し前同趣旨の報酬として金拾弐万五千円を、(三)同月七日頃人吉市立宅栄蔵方において、被告人犬童俊一に対し前同趣旨にて金四万円を、(四)同日同所において被告人恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し前同趣旨にて金五万五千円を、(五)同日同所において被告人泉万次郎及び深野七郎の両名に対し前同趣旨にて金拾万円を、(六)同日頃前同所において、深野七郎に対し前同趣旨にて金五万五千円を、(七)同月十日頃同所において右両名に対し同趣旨にて金拾万円を、(八)同日同所において被告人深野七郎に対し同趣旨にて金九万五千円を、(九)同月十五日頃同所において被告人恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し同趣旨にて金弐万五千円を、それぞれ供与したとの点並びに、
二、同年四月十三日頃被告人田中典次、同吉田富士夫の両名に対し芦北郡における投票取纒方を依頼し、その報酬及び選挙人並びに他の選挙運動者に対する投票並投票取纒運動の報酬とする趣旨で、小田保紀、高野大而を介して、芦北郡大野村国鉄白石駅構内において、吉田富士夫に対し、(1) 同人に対する報酬として金拾万円を供与し、(2) 田中典次に前同様依頼をなすよう請託し、前同様の報酬として供与すべき趣旨で金五万円を交付したとの点については、被告人福永一臣は無罪。
理由
検察官の控訴趣意(被告人福永一臣、同浜砂種光、同田中典次、同吉田富士夫、同犬童俊一、同深野七郎、同泉万次郎、同恒松良一郎関係)並びに弁護人小玉治行の陳述した控訴趣意及び検察官の控訴趣意に対する同弁護人の答弁は、いづれも記録に編綴されている熊本地方検察庁、検察官中野和夫名義の控訴趣意書並びに弁護人原利一名義の控訴趣意書(被告人田中典次、同吉田富士夫、同泉万次郎関係)及び弁護人小玉治行名義の控訴趣意書(全被告人関係)同弁護人名義の答弁書に記載のとおりであるから、いづれもこれをここに引用する。
検察官の控訴趣意に対する判断に先立ち、弁護人小玉治行の答弁書における検察官の本件控訴の申立は不適法であるとの主張について按ずるに、検察庁法第五条の規定によれば、検察官はいずれかの検察庁に属し、その属する検察庁の対応する裁判所の管轄区域内において、その裁判所の管轄に属する事項について、同法第四条に規定する職務を行うものであるところ、地方検察庁の支部は同法第二条第四項により明らかなように、地方検察庁に属する事務の一部を取扱うために置かれたものであつて、同法及び刑事訴訟法中にその管轄を制限した規定はないので、汎く地方検察庁に属する事件につきこれを取扱う権限を有すると同時に本庁と独立の管轄権を有するものでないこと言を俟たない。しかも検察官は上下を通じ公益上一体の機関として設けられたものであるから、上訴権者としての検察官は必ずしも原審における当該事件に関与した者に限らないこともまた明白である。それ故地方裁判所支部において審理判決された事件については、その審理に関与した同支部に対応する地方検察庁支部に属する検察官でない他の検察官であつても、該支部の本庁である地方検察庁に属する検察官である限り、当然にこれに対し適法に控訴の申立をなし得るものと解すべきであつて、本庁の検察官が本庁の一部に過ぎない支部において審理判決された事件について、支部の検察官事務取扱としてではなく、本庁の検察官たる資格において控訴の申立をなすことに何等違法とすべき理由は存しない。これを本件についてみるに本件は熊本地方裁判所八代支部において審理判決され、従つてこれに関与しなかつた熊本地方検察庁検察官中野和夫が同地方検察庁八代支部の検察官事務取扱としてではなく、本庁の検察官の資格において、控訴の申立をなしたものであること所論のとおりではあるが、前に説示したところによりこれを違法というを得ないこと自ら明白である。所論は採用することはできない。
検察官の控訴趣意第一点(事実誤認)について、
一、先づ被告人福永一臣に対する公訴事実中、(一)昭和二十八年三月二十九日頃同被告人が相被告人浜砂種光と共謀の上、人吉市鍋屋旅館において、相被告人田中典次、同吉田富士夫の両名に対し、投票並投票取纒運動の報酬として金弐拾万円を供与したとの点について按ずるに、被告人福永関係の記録の第四回公判調書中証人浜砂種光の供述、同人の検察官に対する各供述調書(昭和二十八年五月二日附、同年五月十五日附、五月十六日附、五月十八日附、五月二十日附)、原裁判所の検証調書及び吉田富士夫の検察官に対する各供述調書(昭和二十八年五月三日附、五月十七日附)、被告人浜砂関係の記録の第五回公判調書中証人福永一臣の供述併合記録中の同人の検察官に対する供述調書(同年八月二十八日附)田中典次の検察官に対する各供述調書(五月二日附、五月十三日附、五月十六日附、五月十九日附)の各記載を綜合して考察すると、被告人福永一臣は判示選挙に立候補を決意して東京を出発し、途中熊本市に一泊の上、昭和二十八年三月二十九日頃人吉市に帰省し、同市鍋屋旅館に投宿したが、同日同旅館には、その選挙区内の自由党芦北支部並びに球磨支部の幹部が、被告人福永のための選挙運動対策について協議の目的で集合しており、同夜夕食を共にしているところに、被告人福永も同市青井神社における球磨支部の役員総会から帰つてこれに加わり、食後被告人福永の居室である二階洋間において、同被告人及び浜砂種光も同席の上で、同じく自由党から立候補した坂田道太の地盤である芦北郡のうち三ケ町村の一部の票を福永に譲り受けることに関し、坂田候補の支持者である芦北支部支部長竹田珍珠、参議院議員深水六郎に対して福永の支持者である同支部の副支部長田中典次、幹事長吉田富士夫等から相談を持ちかけ、その話合が終つて雑談にはいつた際、被告人福永としてはその選挙に立遅れの憾があり、芦北郡で相当に票を集めないことには、当選が危いと思惟し、その方面の運動には特に重大な関心を持ち、先づ同方面に手を打つておこうという気持から、席を立ち、寝室との境のカーテンの後に浜砂種光を呼び入れ、芦北の分として金弐拾万円位やつておこうと申し、自ら押入の中のボストンバツグから、東京より持参の送金小切手及び現金のうち、その現金弐拾万円を出して浜砂に渡し、浜砂がこれを新聞紙に包み、両人共元の席に戻つて浜砂から同席の吉田富士夫にこれを手渡ししようとしたところ同人は田中典次に渡して呉れと申したため、別室に就寝中の田中典次をその席に呼んで来て、同人に授与したものであつて、該金員は田中典次及び吉田富士夫が芦北郡における被告人福永の地盤内での最高責任者として、右地区内の下部の党員に働きかけ、福永に当選を得しめるため投票並びに投票取纒の運動の依頼をすることの報酬及びその運動に要する資金として右両名にその処分を一任する趣旨でこれを供与したものである事実を認めることができる。もつとも、前記証拠のうち、その中心をなす浜砂種光の検察官に対する各供述調書の供述には些細な点で前後相違するところあり、殊に前記金員を田中典次に授与する際、同席した者の氏名については区々たるものがないではなく、この点に関する原審公判における証人浜砂種光、田中典次、吉田富士夫、犬童俊一、深水六郎の各供述及び田中典次、吉田富士夫等の検察官に対する各供述調書中の供述と対比するとき同席者のすべては明確であるとはいえないとしても、少くとも被告人福永、浜砂、吉田のほかに竹田珍珠がその場に居り、後に浜砂等が呼びに行つて田中典次が同室に来たこと及び右金員の授受が被告人福永の指示に基き浜砂から田中典次に渡されたことは終始一貫して変るところはないので、浜砂種光の前記各供述調書の供述の任意性並びに真実性はこれを疑うべくもなく従つて該金員が被告人福永と浜砂との共謀により前示趣旨で授受されたものであることを否定し得ない。そして原裁判所において取調べられた爾余の証拠並びに当裁判所における事実取調の結果によつても、到底右認定を左右するに足りないので、原判決が右供与の事実について、被告人福永の共謀を認定し得ないものとして、この点に関し同被告人の無罪を言渡したのは、事実の認定を誤つたものというのほかなく、その誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、この点の論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
二、次に被告人福永一臣に対する公訴事実中(二)同被告人が相被告人浜砂種光と共謀の上、(1) 昭和二十八年四月一日頃人吉市犬童俊一方別宅において、同人に対し投票取纒方を依頼し、投票並投票取纒運動の報酬として金拾六万円を、(2) 同日頃同所において被告人恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し、前同趣旨の報酬として金拾弐万五千円を、(3) 同月七日頃人吉市立宅栄蔵方において、被告人犬童俊一に対し前同趣旨にて金四万円を、(4) 同日同所において、被告人恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し前同趣旨にて金五万円を、(5) 同日同所において、被告人深野七郎に対し、同趣旨にて金五万五千円を、(6) 同日同所において被告人泉万次郎及深野七郎の両名に対し同趣旨にて金拾万円を、(7) 同月十日頃同所において右両名に対し、同趣旨にて金拾万円を、(8) 同日同所において、被告人深野七郎に対し同趣旨にて金九万五千円を、(9) 同月十五日頃同所において、被告人恒松良一郎及び富松為五郎の両名に対し同趣旨にて金弐万五千円を、それぞれ供与したとの点について考察すると、被告人浜砂種光から右の日時、場所において、前記各金員が各相被告人等に授受されたことは後に説示するとおり疑を容れないところである。而して、原審で取調べた証拠、殊に検察官に対する浜砂種光の昭和二十八年五月二十四日附、犬童俊一の同年五月二十六日附、深野七郎の五月九日附及び五月二十日附、泉万次郎の五月十九日附及び五月二十五日附、恒松良一郎の五月二十三日附、五月二十五日附、富松為五郎の五月二十五日附、福永一臣の八月二十八日附の各供述調書に徴すると、被告人浜砂は同年三月二十九日被告人福永が東京から持参の送金小切手金七拾万円及び其後福永の後援者からの送金をすべて現金化してこれを自己において保管し、福永の選挙に関する資金の一切の支出の元締をなし福永の最高の補助者として選挙運動の総括主宰者たる地位にあつたところ、昭和二十八年四月十九日施行の衆議院議員選挙に際し、被告人福永の主要地盤である人吉市及び球磨郡下においては、同年三月二十九日頃人吉市青井神社に自由党球磨支部の役員総会を開催し、福永の公認を再確認し、同候補を支援することに決したので、四月一日頃同市犬童俊一方に同支部の幹部が集り、選挙対策委員会を開き、上球磨、下球磨、中球磨、人吉市の四地区に分け、各地区の担当責任者を決定し、運動方法等について協議したもので、右対策委員会には被告人福永も出席したけれども、同日の各担当責任者の受持つ各地区に配分すべき選挙運動資金の概算額決定については、総括主宰者たる被告人浜砂種光が主として同支部幹事長である犬童俊一と相談の上これを定め、被告人浜砂種光から同日及び四月十五日頃と分割して各担当責任者に授与した事実が明らかである。そして被告人福永は三月二十九日東京より持参の小切手金七拾万円を同日浜砂種光に渡し、これが浜砂により現金化されたほか、四月初頃から同月二十日過頃迄の間に数回に亘り福永宛にその後援者より合計金百拾万円以上の送金があり、その都度浜砂よりその報告を受けておること及び浜砂が該金員のうちから出納責任者である深野七郎に対し、選挙運動費として合計約六拾万円を数回に亘り分割して渡した以外は、同人により芦北地区、球磨人吉地区に分割して配分されるであらうことを想像していたことも窺われないでもないが、前記人吉、球磨地区の各担当者に選挙運動費として配分することについては、被告人福永がこれに参与し、浜砂とその供与を謀議したものとは未だこれを確認するに足りない。もつとも、原審で取調べた前記昭和二十八年五月二十日附の浜砂種光の検察官に対する供述調書には、浜砂は選挙運動資金の配分について、芦北地区は金五拾万円、球磨人吉地区は金七拾万円という線で配分する予定で、この事は福永とも一応大体の枠として話しておいた旨及び送金して来た金は自分が保管し、旅館の帳場に預けておき、必要の都度福永と相談して引出し支出していた旨の供述もあるが、爾余の証拠と対比して検討すると、右供述を以て前記各供与が被告人福永が浜砂と共謀してこれをなしたものと断定する証拠とはなし難くまた福永一臣の昭和二十八年八月二十八日附検察官に対する供述調書には、約百五十万円が浜砂から芦北地区、人吉、球磨地区の各担当者及び上益城郡の三芳知平等に選挙運動資金として渡されたことは凡そその都度浜砂から話があつて承知していた旨の供述もあるけれども、前に掲げた各証拠により、選挙運動貸金の運用配分については、当初から浜砂に委されていたことが窺われないでもないので、右供述により直ちに事前に前記各供与について浜砂と被告人福永との間に謀議がなされたものとは認められない。なるほど報酬を供与して選挙運動を請託することを謀議した者は、共謀者の一人がこれに従い実行した以上他の共謀者は具体的事実を予知せず、又はその実行行為に直接関与しなかつたとしても、実行を分担した者の行為について、罪責に任ずべきものであることは言を俟たないとはいえ、叙上説示のごとく、被告人福永が浜砂の右各供与について、これを謀議したことが認められない本件においては、被告人福永に該供与罪の成立を肯定するに由ないものといわねばならない。
してみると、原判決が被告人福永に対する前記各公訴事実について、その共謀を認める証拠が十分でないとし、その犯罪の成立を否定したのはまことに相当であり、原判決にはこの点の事実認定に所論のような違法はない。論旨は理由がない。
三、被告人浜砂種光、同犬童俊一、同深野七郎、同泉万次郎、同恒松良一郎に対する公訴事実中、被告人福永関係の(二)の事実と同一の被告人浜砂の各供与並びにこれに関連する爾余の被告人某の各受供与の点について按ずるに、前に説示したように、公訴事実に摘示の日時、場所において、被告人浜砂から右被告人等に対し、摘示のとおりの各金員が授受されたこと、右金員がいづれも浜砂から被告人福永一臣に当選を得しめる目的で、各被告人等に対し、各担当地区内における選挙運動者に働きかけ、投票取纒運動をすることを依頼し、その報酬及び買収資金として授受されたものであることは、前に掲げた各被告人等の検察官に対する各供述調書及び原判示第五乃至第八事実関係において原判決が挙示する各証拠によりこれを認めるに充分である。而して原判決は右金員の授受が前記四月一日犬童俊一方における選挙対策委員会において、被告人浜砂及び自由党球磨支部の幹部である各被告人等並びに富松為五郎が相謀り、各地区の担当責任者を定め、各担当者が地区内の選挙人並びに選挙運動者に対し、投票並投票取纒方を依頼し、その報酬として金銭を供与することとし、各担当地区におけた運動資金の配分額をも決定し、これに基いて浜砂から爾余の被告人等に摘示のとおりの金銭が交付されるものであるから、供謀者間の内部関係における金銭供与実行の為にする準備行為にほかならないので、犯罪を構成しないものとしていること判文自体により明らかである。しかし前に掲げた各被告人等及び富松為五郎の検察官に対する各供述調書の記載によれば、被告人浜砂は自己が保管する選挙運動資金のうちから、芦北地区と人吉、球磨地区に配分すべき資金の大体の枠を定め、前記四月一日の犬童俊一方における会合の際、主として支部幹事長犬童俊一の意見を参酌し、前回の選挙における各町村の福永候補の得票数を勘案の上、各担当者に供与すべき大体の額を定めるに至つたのではあるが、浜砂としては、各地区担当者たる右被告人等に対し、それぞれ候補者福永が当選できるようそれぞれの地区内の下部運動者に働きかけ、出来るだけ多くの投票を獲得することを請託し、一切を各担当者に委して、摘宜に右摘示の金銭をその選挙運動資金に使用させることとして授与したものであつて、浜砂において三月二十九日福永から受取つた送金小切手の金七拾万円及びその後数回に亘り東京から福永宛に送金された合計百拾万円以上の金員のうちから、該選挙における法定選挙費用参拾八万五千八百円を超過した約六拾万円余を選挙費用として出納責任者深野七郎に交付した残余を以て支出したものであり、いづれも各地区担当者である被告人等に対する右運動の報酬(もとより報酬として多くを予定していたものでないことは窺われるが)及び下部の運動者に対する買収費とする趣旨で、結局は各担当者が右運動をするために自由に使うことを一任して渡したもの、換言すると、各担当者に渡し切りのものであつて、後日使途の報告とか精算を求める意思はなかつたものであること、また被告人等においても、浜砂の右意図を充分諒承し、右のごとき趣旨の金員であることを知りながら、これを受領したものであることがともに認められる。なるほど、前記各供述調書中には、浜砂は各担当者が福永候補のため運動をする足代として渡した旨及び選挙運動の取締が厳しいから、選挙人等の饗応などに使わないようにして貰いたい気持であつた旨の供述もないではないがこれを以つて前認定を否定し得ないし、原裁判所において取調べられた証拠のうちには右認定に牴触する証拠もあるが、前記各証拠と対照すると、これを措信するを得ない。
右のごとく、特定候補者の選挙運動者と、その者から選挙運動を依頼された者との間に、その運動をすることの報酬並びにその裁量に一任された第三者に供与すべき買収資金を一括して金銭が授受された場合、すなわち、授受の金銭が投票買収請負の対価であるか、若しくはその金銭のうちに受領した者に対する報酬が包含されている場合に、その報酬と買収費用とが分別し難い状況において、一括して授受されたものと認められる限り、その報酬とする部分の多寡に拘らず且つその供与を受けた者が該金員のうちからさらに所期のごとく第三者に同様の趣旨で供与したときにおいてもその全額の授受について、供与罪並びに受供与罪が成立するものと解すべきである。
けだし、公職選挙法第二百二十一条が当選を得若しくは得しめる目的を以て、選挙人又は選挙運動者に対し、金銭その他の財産上の利益等を供与(その所得に帰せしめること)し、または他の選挙人又は選挙運動者に供与せしめる目的を以つてそれ等のものを交付(その所持を移転すること)する場合のほか、供与の申込若しくは約束、交付の申込若しくは約束、その要求若しくは申込の承諾等の行為をも禁止していることに鑑みれば、投票並びに投票買収資金として一方から他方に金銭が授受された場合には、その授受者間においては、相互にその情を知つているのであるから、両当事者は第三者に対し買収資金を供与することを共謀したものということができ、原判決の説示するように共謀者間の内部関係における第三者に対する金銭供与の実行の為にする準備行為と一応見られるようであるが、この段階における行為もすでに違法な選挙運動のための金銭の授受として、交付罪、受交付罪を以て処断すべき趣旨であることが明白である。ただその買収資金がこれを交付を受けた者によりその交付を受けた趣旨に従つて、他に供与されたときは、さきの授受は交付罪又は受交付罪を構成しないことは多言を要しないところであつて、それは後の供与罪の共同正犯として成立するため、さきの授受について、重ねて責任を問うべきでないことに因るものである。それ故その授受された金銭のすべてが第三者に対する買収資金であることが明確であつて、受領した者に財産上の利益を供与するものでなく、且つその授受の金銭が所期のごとく選挙人又は他の選挙運動者に供与された場合にはそれ等の者に対する供与罪が成立する関係で、さきの授受(交付及び受交付)はこれに吸収され別罪を構成しないというに過ぎないのであつて、その授受された金銭のうちに、これを受領した者に対する報酬など、その者の所得に帰せしめる金員を包含し、これが判別し難い状態で一括して授受される場合には、その部分の多寡を問わず、その全額について、供与罪及び受供与罪の成立を肯定し、さらにその者によつて第三者に金銭が供与される場合には、重ねてその部分について供与罪の成立を認むべきであつて、さきの供与及び受供与を不問に附すべき合理的理由は見出し得ないからである。
以上のとおりであるから、本件被告人等の前記各金員の授受について、供与罪及び受供与罪が成立することは当然であつて、弁護人小玉治行の答弁書中のこの点に関する所論には賛同し難い。
それ故、前記各公訴事実に関する限り、原判決は事実の認定を誤つたか、然らざれば法令の解釈適用を誤つたものというのほかなく、右の誤りは判決に影響を及ぼすこと勿論であるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
四、被告人田中典次、同吉田富士夫に対する公訴事実中、被告人田中典次は(一)昭和二十八年四月十日頃被告人吉田富士夫方において同人の妻吉田フミを介し同人に対し、同人の担当地区における投票取纒方を依頼し、その報酬及び選挙人並びに他の選挙運動者に対する投票並投票取纒の報酬とする趣旨にて、金四万円を供与し、(二)同月十四日頃佐敷町荒木亀男方において吉田富士夫に対し前同趣旨にて金弐万円を供与したとの点及び被告人吉田富士夫は右(一)及び(二)のごとく田中典次から各金員の供与を受けたとの点について考察するに、被告人田中典次(昭和二十八年五月二日附、同年五月三日附、五月十三日附、五月十六日附、五月十九日附)、被告人吉田富士夫(同年五月三日附、五月十二日附、五月十七日附)被告人浜砂種光(五月二日附、五月七日附、五月十五日附、五月十七日附、五月二十日附)及び吉原勇平の検察官に対する各供述調書並びに原審公判調書中証人浜砂種光の供述記載に徴すると公訴事実に摘示の日時、場所において、右被告人両名間に摘示の趣旨の金員が授受されたことを認めることができるが、被告人田中典次は自由党芦北支部の副支部長、被告人吉田富士夫は同幹事長で共に候補者福永一臣を支持し、芦北郡十ケ町村のうち、同支部長竹田珍珠等が支持する坂田道太候補の地盤を除いた七ケ町村を福永の地盤とし、両名において同地区の最高責任者として地区内における福永候補の選挙運動を推進することとなり、三月二十九日人吉市鍋屋旅館において、浜砂種光等から該地区の運動資金として先づ金弐拾万円を両名相談の上適当に福永候補のための運動に使用することを一任されて供与を受け、次いで四月一日頃両名は相謀り吉田富士夫方に各地区の同党幹部を召集し、該地区内の二見村は園川秀雄、百済来村は中庭一治、吉尾村は熊部十代継、湯浦町は宮島留人(及び藤井孫太、佐藤巌夫)、大野村は山下叡、佐敷町は吉田富士夫、田浦村は田中典次と各担当者(連絡員)を定め、前回の選挙における各町村の得票数から割出して各担当者に配分すべき額を定め、前記金弐拾万円のうちからその第一回分として、運動資金の配分をなし、さらに四月九日頃被告人田中典次が福永候補から直接受領した金弐拾万円を以て、その第二回分として、各担当者に配分をなしたものであつて、被告人吉田富士夫は右のごとく佐敷町の担当者たる地位にもあつたが、同町には芦北地区における福永候補の選挙事務所が荒木亀男方に設けられ、吉田富士夫自身芦北分地区の運動について田中典次と共同して採配を振わねばならない事情から、佐敷町における運動は事実上専ら吉原勇平及び葉玉次郎吉等がこれに当つていた関係上、前記の三月二十九日受領の金員のみならず四月九日に受領した金員も同様に右被告人両名が相談して各町村の担当者に配分したものであつて、このうち佐敷町に対する配分額は一応吉田富士夫において田中典次から受取り、そのまま吉原勇平にこれを渡した経緯にあることが明認し得られ、右認定を左右すべき証拠は記録上見出し得ない。
そして被告人吉田富士夫が吉原勇平に供与した各金員については、原判示第四の二の(二)の事実中において、有罪を認定され、各供与罪として処断されているところであるから、被告人田中典次と同吉田富士夫との間の前記各金銭の授受に関する供与及び受供与(正確には交付及び受交付と認むべきもの)の点は吉原勇平に対する敍上供与罪に吸収され、別罪を構成しないものと解すべきことは、さきに被告人浜砂、同犬童等に対する公訴事実について説示したところから、自ら明白であるといわねばならない。
それ故、原判決が右公訴事実について、被告人両名に供与罪及び受供与罪が成立しないものと判定したことは結局正当であつて、これを不当とする理由を発見することはできないので、原判決にはこの点に関し所論のような違法はない。論旨は理由がない。
被告人田中典次、同吉田富士夫、同泉万次郎の弁護人原利一の控訴趣意中事実誤認又は法令適用の誤の点並びに全被告人の弁護人小玉治行の控訴趣意第一点(事実誤認)、第二点(採証法則違背及び事実誤認)、第三点(事実誤認並びに採証法則違背)について、
しかし、原判決が各被告人について有罪を認定した判示各事実中被告人福永一臣に対する原判示第一の一、の(一)の事実を除くその余の事実は、いづれも原判決が挙示する関係証拠を綜合してこれを認定するに充分であり、記録を精査しても原判決の事実認定に誤りがあることを発見することはできない。
而して一、被告人福永一臣の判示第一の一の(一)の事実につき按ずるに、原判決が挙示引用する証拠に徴すると、被告人浜砂種光が判示日時、場所において、吉田富士夫及び田中典次に供与すべく判示のごとく金拾五万円を小田保紀、高野天而を介し吉田富士夫に授与したことは優にこれを認め得られるところで、被告人福永一臣が右供与について、浜砂とこれを協議したことも挙示の浜砂種光の検察官に対する各供述調書の記載により一応これを肯定し得られるようにも見える。ところが、浜砂種光の右各供述調書によると、判示供与の日の前日である四月十二日午後十時過頃、人吉市鍋屋旅館の二階の被告人福永の居室である洋間において、浜砂は同被告人と芦北地区の運動資金として金拾五万円を渡す話合をして早速その部屋に備付けの電話で佐敷町の吉田富士夫を呼出しこの話をして、翌日白石駅迄右金員を持参することを打合せた上、翌日小田保紀に頼み、結局高野天而をして持参せしめて供与したというにあるのであるが、弁護人の所論指摘の各証拠並びに当裁判所における事実取調べの結果(殊に被告人浜砂種光の供述及び弁護人提出の自由党球磨支部の日程表、人吉市選挙管理委員会宛証明願と題する書面の各記載)を綜合して検討すると、右謀議の日時が前記浜砂の供述するごとく四月十二日午後十時過頃であるとすれば、右時刻には被告人福永が前記旅館に帰宿していたことは甚だ疑しく、仮りにそれが四月十三日であつたとしても同様であり、また浜砂が右供与について被告人福永と話合つた日時に関する右供述が錯誤に基くもので、その以前に右両名間に真実その協議がなされたのではないかと一応推測されないでもないが、若しさうだとすると、右金員を小田保紀に託して白石駅迄持参させた日も判示の日と異ることとなり、吉田富士夫及び田中典次の検察官に対する各供述調書により認められるその受供与の日時と一致しないこととなり、被告人福永が浜砂と謀議した日時は遂に確認し難く、記録上四月十二日より以前に両名が謀議をなしたことを首肯せしめる明確な資料は存しないので、浜砂種光の前記供述調書の供述のみを以てしては、被告人福永が右供与について共謀したことを肯定するに足りない。のみならず、前に説示したように、芦北地区に対して当初から約五拾万円の運動資金の枠が定められ、当時既に金弐拾万円宛二回、合計金四拾万円が配分されていたが、愈々選挙も終盤に近づき、追込戦の時期に入り、該地区は福永派において最も重視していた地盤でもあり、福永の最高補助者として選挙運動を総括主宰していた浜砂に対しては、相当広範囲の裁量が許されていたことも記録上これを窺われないでもなく、従つて同人が吉田富士夫等に対し独断でさらに判示金員を配分することもあり得ないでもないことからしても、原判決挙示の証拠によつては、たやすく被告人福永が右浜砂の供与について共謀があつたものとは断定し難く、他にこれを明認すべき証拠は記録上見当らない。
それ故原判決が判示のごとく被告人福永の共謀を認定したのは事実の認定を誤つたものと認められ、右の誤りは判決に影響を及ぼすこと言を俟たないから、この点に関する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
二、所論によると被告人福永一臣に対する原判示第一の一の(二)に摘示の四月六日三芳知平に金拾万円を供与したことについても被告人福永一臣は浜砂種光から相談を受け、或いは同人にこれを指示した事実はないというにあるが、原判決が右事実の認定の証拠とした浜砂種光及び久保田喜一の検察官に対する各供述調書中の供述の真実性を否定すべき資料は存しないのみか、被告人福永一臣は当審において、久保田喜一からの呼びかけには余り信用をおいておらず、浜砂に対して同人の話に乗るなと言い聞かせていた旨供述しているが、福永の検察官に対する供述調書並に当審第二回公判調書によるとその時の選挙には自分は立遅れで、形勢が不利であつたから久保田喜一から持込まれた田方進の地盤の上益城郡甲佐町方面えの運動の話を渡し舟と喜んで受入れ、同人に浜砂と一緒に行つて貰うよう頼んだことが明らかであり、原判決に挙示の証拠により、浜砂種光が久保田喜一と共に、新たな地盤獲得のため、甲佐町の三芳知平方に依頼に行くについて、同人の運動報酬並びに買収資金として供与すべき金銭に関し、被告人福永と相談をしたことは疑を容れる余地なく、当審における事実取調の結果によつても未だ右認定を左右するに足りない。そして三芳知平は浜砂が差出した右金員を一応は辞退した事実はこれを窺うことができるが、あくまでもこれが受領を拒むことなくして、これをそのまま所持保管していたこと記録上明白であるから、該金銭の供与を受けたものと認めるに毫も支障はない。
三、次に所論は、被告人福永一臣に対する原判示第一の二に摘示の四月九日田中典次に授与した金弐拾万円は同地区から立候補した永田正義の立候補を辞退させる目的で同人に供与するために田中に預託したものであると主張するが、本件の捜査段階においては右のごとき趣旨で預託されたものであることは全く現われておらず、被告人福永も検察官に対する供述調書中においては、右日時頃田中に金弐拾万円を渡したことは記憶しない旨供述しており、原審公判廷において始めて右のごとき供述をするに至つたものであつて、原判決に挙示の田中典次の検察官に対する各供述調書によれば、田中典次は前記金弐拾万円の供与を受け、これをその当時同人の担当地区における福永のための投票取纒の運動資金として使用していることが明白であるから、該金員は被告人の弁解の如き趣旨のものとは異なり、判示のごとく芦北地区の運動資金として田中典次に供与されたものであることは動かし難いところであり、所論援用の証拠並びに当審における事実取調の結果によつても右認定を覆すに足りない。
四、また被告人浜砂種光に対する判示第二の一乃至三の各供与の事実については、いづれも候補者福永一臣に当選を得しめる目的を以て、相手方が同候補者のため投票取纏めの運動をすることに対する報酬を含め、その下部の選挙人及び選挙運動者の買収資金として適当にその処分をすることを一任して供与したものであることが挙示の証拠により優に認め得られるので、相手方に対する不可分的報酬を含む以上これを共謀者相互間における買収の実行のための準備行為ということはできないこと、さきに検察官の論旨について判断したところから自ら明白であり、なお三芳知平に対する金銭の授受が結局供与罪を構成することは被告人福永一臣に対する公訴事実について説示したとおりであり、この点に関する所論は独自の見解であつて賛同し得ない。
五、次に被告人田中典次に対する判示第三並びに同吉田富士夫に対する判示第四の各事実のうち、三月二十九日浜砂種光等より供与を受けた金員が単に共謀者相互間における授受ということができないことは既に浜砂関係の事実(四)について説明したところから明白であり、また四月九日福永一臣から田中典次が受取つた金員が所論のように永田正義の立候補を辞退せしせるための費用とする趣旨でなかつたことも、被告人福永一臣の関係事実(三)について説示したとおりであり、所論はいづれも当を得ない。
六、被告人三芳知平に対する判示第九の事実について、判示のように供与を受けたものでないとの所論も既に被告人福永一臣、同浜砂種光関係(二)(四)において説示したとおりであるから到底容認し難く、同被告人に受供与罪の成立を否定するに由ない。
七、被告人犬童俊一に対する判示第五の各事実に関する所論は、結局授受された金銭の趣旨を争い、所謂実費の弁償であると主張するにあるが、同被告人は球磨、人吉地区の自由党支部の幹事長として、同地区の被告人福永一臣の選挙運動の最高責任者として重要な役割を演じていたもので、兼ねて中球磨地区の八ケ町村の担当者として、出納責任者でない浜砂種光より直接供与を受けた金員を以て担当地区の下部の運動者に働きかける運動に従事したものであることは前に説示したとおりであり、原判決挙示の証拠に徴すると、同被告人は四月五日頃第一回分として担当地区内の運動者に対し買収費等の配分をなした上、さらに選挙も終盤に近づいて追込戦となつた四月十五日頃一層努力して貰うべく第二回分の配分をなしたもので、いづれも各町村における選挙運動者に対し、候補者福永一臣に当選を得しめるため、有効適切に使用するようその自由処分に委ねて供与したものであつて、もとより各運動者に対する該運動の報酬を含めたことが明らかであり、その配分に際しては、酒食に使わぬようにと注意したことも窺われないではなく、また表面上は運動して廻る足代、すなわち、車馬賃、弁当料等の実費であるごとく称して授受されたものと見られる証拠もないではないが、授受の両当事者間においては、事実は前示のごとき趣旨で供与されるものであることの情は自ら充分に諒解されていたことはこれを認めるに難くない。所論指摘の各証拠のうち右認定に反する部分は前記証拠と対照して措信し得ない。のみならずおよそ公職選挙法第百九十七条の二所定の実費の弁償又は労務者に対する報酬の支払と認められるところのものは出納責任者が所定の手続を踏んで、所定の基準額の範囲内において、選挙運動に従事する者に対しその者が実際に特に支弁した正常な交通費、弁当料、宿泊費及び他の労務者に対して立替支弁した正常な賃銀等の弁償、または機械的な労務に服する労務者に対し、その労務の対価として直接賃銀の支払としてなされるものであり、それが前払される場合においては、その前渡の当時、その使途が具体的に予定され、且つそれが正常な実費又は報酬であることが後日領収証その他の資料によつて個々に証明されるような方法で支給されることを要するものと解すべきである。かく解しない限り、同法の選挙費用の制限に関する諸規定は意味のないものとなり、選拳人及び選挙運動者に対する買収等の所為を禁止した規定も殆ど空文に等しいものとなることは多言を要しない。
そして、本件において、被告人福永一臣の選挙運動の総括主宰者である浜砂種光は、法定の選挙費用である参拾八万余円を遥かに超過した六拾万円余を選挙費用として出納責任者である深野七郎に交付した上に、自ら合計百数拾万円を芦北地区、球磨地区の各区担当者に授受しており、その授受に際してはその使途の明細の報告をなすことを要請することなく(現実にその使途について後日領収証等の資料により証明されていない)その処分を一任して供与したものであることは前掲証拠により明白であり、被告人犬童俊一は勿論のことその余の各地区担当者においても、浜砂から受領した金員のうちから、下部の選挙運動者等に対し、同様の趣旨方法でそれぞれ供与したものであることも前記証拠により明らかであつて、同被告人等においては判示各金員を供与するに当り、合法的な実費とすることを予定してこれを支給したものと認める証拠は記録上見当らないから、右金員が判示のごとき趣旨で供与されたものであることは到底これを否定することはできない。ただ、原判決においては判示各金員が、投票取纒方を依頼しその報酬及び選挙人並びに他の選挙運動者に対する投票又は投票取纒運動の報酬として供与された旨判示されているが、右はひつきよう、これを受領した者の運動に対する報酬のほかに、その者がさらに選挙人に対し投票の報酬として、または他の選挙運動者に対し投票取纒の運動報酬及び投票買収資金として、それぞれ供与するに要する費用を包含し、換言すると選挙運動の報酬及び買収費用として供与したとの趣旨に帰着するのであつて、その用語の当否は別として、結局違法な運動資金を供与したことには差異はなく、これを以て判決を破棄すべき事実の誤認というは当らない。なるほど本件においては被告人犬童俊一を始め各地区の担当者が前記浜砂種光等から受領し、さらに下部の運動者に授与した金員は、いづれも受領者において他の選挙運動者等を買収することの意図の下に授与されたものがその大部分を占める趣旨であつたことは記録上これを窺うに難くないけれども、受領者その者に対する運動の報酬を包含し、その額が明確に判別しない状態で授与されたものであること前説示のとおりである以上これを包括して供与罪の成立を肯定しなければならない。また被告人犬童俊一及びその余の被告人等はいづれも自由党球磨支部又は芦北支部の幹部であつて、同被告人等から判示金銭の供与を受けた者も、それぞれ下部の党員又は同党の支持者であり、いわば党の組織を挙げて自由党公認で立候補した被告人福永一臣に当選を得しめるために選挙運動をなしたことも窺われるが、これを以て必ずして同被告人等の授受した判示各金員が判示のごとく運動報酬及び買収費であることを否定する資料とはなし難い。
なお、所論によれば原判決は採証法則に違背して判示事実を認定した違法があると主張するけれども、現行刑事訴訟法は公判中心主義の建前を採つているとはいえ、事実の認定は合理性に反しない限り、裁判官の自由な心証に委ねられているのであつて、経験則に照し適法に集収された捜査段階における被告人並びに関係人の供述が、公判におけるそれよりも信憑性あるものと認め得られる場合には、これを罪証に供することは毫も不当とすべき理由はない。それ故本件において原審は各被告人関係の判示事実を認定するについて、主として各被告人並びに関係人等の検察官に対する各供述調書中の供述を採用し、これに反する原審公判廷における各供述その他の証拠を排斥しているとはいえ、その罪証に供した各被告人並びに関係人等の各供述調書及び記録全般を仔細に検討してみれば、各供述調書中の供述はそれが任意になされたものであり、且つ公判廷における供述よりも信用性並びに真実性があるものと認めることができるので、原審の証拠の取捨並びにその証明力の判断に経験則違背等特に不合理とすべき事由は存しない。
以上のとおりであるから、当裁判所が被告人福永一臣関係において、犯罪の証明がないと認めた原判示第一の一の(一)の事実を除くその余の事実については原判決が各被告人に対し、判示のごとく投票取纒運動の報酬及び買収費として、適法な選挙運動費用に属しない金銭の授受がなされたものとして、公職選挙法第二百二十一条第一項の各号をそれぞれ適用して処断したことはまことに正当であり、原判決には所論のような違法があるということはできない。論旨はいづれも理由がない。
弁護人小玉治行の控訴趣意第五点(憲法第三十九条違反)並びに第六点(憲法第三十一条違反)及び弁護人原利一の重刑不当の控訴趣意中、選挙権等の停止が基本的人権を蹂りんするとの点について、
しかし、選挙犯罪の処刑者に対し、刑法第九条所掲の刑のほかに、公職の選挙権及び被選挙権の停止の処遇を科することは、公職選挙法自体においてこれを規定するところである。そしてこの処遇がかかる犯罪者に対する重要なる法益の剥奪であつてその実質は刑法上の刑に匹敵し、刑の量定、不利益変更禁止その他の面においてその刑罰性が承認されていることは所論のとおりであり、殊に主権在民を基調とする現行憲法の下において国民主権につながる最も重要な基本的権利の一である公職の選挙権を剥奪することは由々しい事柄であることは言を俟たない。社会一般に選挙権の行使が国民主権の行使につながる重大な基本的人権の行使である所以が明確に意識されるに至り、かかる処遇の必要がなくなることが期待されるところであるが、この制度が現に選挙の自由、公正を害した者で、選挙に関与せしめることが不適当と認められる者は、暫く選挙権の行使から遠ざけようとする配慮に由来するものである限り、わが国現下の実状においては、なお、かかる犯罪に対する一種の制裁として正義の要求するところと選挙の公正を保持しようとする合目的性の要請からして、その合理性を有するものといわざるを得ない。それ故この処遇を以て国民の参政権を不当に侵害し、或は地方自治を撹乱し、ひいて基本的人権を蹂りんし、民主政治を破壊する虞れがあるとするのは、独自の見解に基くものであり、むしろ民主政治の健全な発達を期する所論とはなし難い。
而して公職選挙法第二百五十二条第一項乃至第三項は、裁判所は選挙犯罪の処刑者に対し、その裁量により諸般の情状に照して、第一、二項所定期間これを停止することが相当でないする場合には、これを停止せず或は停止期間を短縮する旨の宣告をすることができるし、これを停止すべきものとする場合にはその旨を判決主文に宣告しなくとも、停止の効果が自動的に発生することとしておるのである。されば、選挙権及び被選挙権停止の処遇は、裁判所が訴訟審理の全経過に徴し、被告人を処断するに当り、情状により同法の規定に基いて同法所定の主刑に附加して言渡され、或はその主刑言渡しの附随的効果として発生せしめるものであることが明らかであり、当該選挙犯罪についての本来の証拠調を中心とする審理過程と表裏不可分の関係において為されるものであるから、所論のようにこの処遇のみを切り離し、この処遇について、証拠調べが行われず、また起訴状に罰条として記載されず、検察官の意見が述べられぬままこれを為したものであるとして、法律で定める手続によらないで、被告人の自由を奪い刑罰を科したものということはできない。(昭和三〇年(あ)第一、六九九号、昭和三〇年一一月二二日最高裁第三小法廷判決参照)
また、この処遇は、主刑の対象となつた犯罪行為をなしたことに対する処遇であつて、その発生原因を一にするものであることも敍上の説示により明白であるから、主刑のほかに、この処遇をなしたことを以て同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問うたものと同視するを得ない。
以上のとおりであるから、本件について原判決が右選挙法の規定に準拠してなした各被告人に対する選挙権及び被選挙権停止の処遇について所論のごとき憲法の諸規定に違反する違法があるということはできない。論旨はいづれも採用の限りでない。
弁護人原利一の控訴趣意中量刑不当の点並びに弁護人小玉治行の控訴趣意第四点(量刑不当)について、
被告人福永一臣、同犬童俊一、同泉万治郎を除く爾余の各被告人の関係において、本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた本件犯罪の主観的並びに客観的事情その他諸般の情状及び犯罪後の情況等を考究すると、原審の被告人三芳知平、同恒松良一郎に対する刑の量定は、所論の情状を参酌しても、なおこれを過重とする事由を発見することはできないので論旨は採用することはできない。
しかし被告人浜砂種光、同深野七郎、同田中典次、同吉田富士夫に対する科刑は浜砂種光及び深野七郎に各言渡した刑期(なお深野に実刑を言渡したこと)の点並びに田中典次、吉田富士夫に対し各追徴を命じた金額の点において、結局その量刑が相当でないと認められる。殊に追徴について、原判決は右被告人両名が各供与を受けた金銭の全額を追徴しているのであるが、本来犯人が或る候補者のための選挙運動に対する報酬として金銭の供与を受けた場合において、その金銭の一部を自ら任意の意思に基いてさらに第三者に対し、同一候補者のための選挙運動の報酬として供与した関係にあるならば、さきに供与を受けた金員からさらに供与した金員を控除することなく、全額を追徴したからというて、必ずしも違法の措置とは断じ難いけれども、本件のごとく前に説示したところから明らかなように、右被告人両名はいづれも自己の担当地区の責任者という立場において、自己の選挙運動に対する報酬を包含していたとはいえ、地区内の選挙人及び選挙運動者に供与すべき買収資金とする趣旨の金員に該当するものがむしろその主体をなしていたのであるからその全額について受供与罪の罪責を負うは已むを得ないとしても、供与者の所期のごとく第三者に供与した金額は、実質的にこれをみれば、受交付に該当し、当初からそれが判別し得たならば後の供与罪に吸収されるべき筋合のものであつたのであるので、当初の受供与金から右のごとく供与した金額はこれを控除して追徴するのが妥当であると思料される。それ故右被告人等の関係においては論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
そこで、被告人恒松良一郎、同犬童俊一、同泉万次郎、同三芳和平の本件控訴及び検察官の被告人田中典次、同吉田富士夫関係の本件控訴はいづれも刑事訴訟法第三百九十六条に則り、これを棄却することとする。
そして被告人福永一臣関係においては、検察官及び弁護人の各量刑不当の論旨に対する判断を省略し、原判決の有罪並びに無罪部分、被告人浜砂種光、同深野七郎の関係においては、原判決の有罪並びに無罪部分、被告人田中典次、同吉田富士夫の関係においては、原判決の有罪部分、被告人恒松良一郎、同犬童俊一、同泉万治郎の関係においては、原判決の無罪部分並びにこれを併合罪として起訴されたことによりその有罪部分(なお犬童、泉関係の弁護人の量刑不当の論旨に対する判断は省略)をいづれも同法第三百九十七条に則り破棄した上、同法第四百条但書に則り、更に裁判をすることする。
当裁判所は原判決が被告人浜砂種光、同田中典次、同吉田富士夫、同犬童俊一、同深野七郎、同泉万次郎、同恒松良一郎に対し各有罪を認定した事実(原判示第二の一、二、三、第三の一、二、第四の一、二、第五の一乃至一六、第六の一乃至三五、第七の一乃至五〇、第八の一、二)並びに被告人福永一臣に対し有罪を認定した原判示第一の一の(二)及び二の各事実(判示第一の一、の(一)を除く)のほか、次の各事実を左の証拠により認定する。
(事実)
一、被告人福永一臣は浜砂種光と共謀の上、自己に当選を得る目的を以て、昭和二十八年三月二十九日頃人吉市鍋屋旅館において選挙運動者である田中典次、同吉田富士夫の両名に対し投票取纒方を依頼し、右運動の報酬並びに他の選挙人及び選挙運動者に対する買収資金とする趣旨で、一括して金弐拾万円を供与し、
二、被告人浜砂種光は候補者福永一臣に当選を得しめる目的を以て、
(一) 同年四月一日頃、人吉市の犬童俊一方別宅において、選挙運動者である同人に対し、中球磨地方における投票取纒方を依頼し、該運動に対する報酬並びに選挙人及び他の選挙運動者に対する買収資金として金拾六万円を、
(二) 同日同所において、同様選挙運動者である被告人恒松良一郎及び富松為五郎の両名に対し、上球磨地方における投票取纒方を依頼し、前同趣旨にて金拾弐万五千円を、
(三) 同月七日頃、立宅栄蔵方において右両名に対し前同趣旨にて金五万円を、
(四) 同月十五日頃右同所において、右両名に対し前同趣旨にて金弐万五千円を、
(五) 同月七日頃右同所において、前記犬童俊一に対し前同趣旨にて金四万円を、
(六) 同日同所において選挙運動者被告人泉万次郎及び同深野七郎の両名に対し、人吉市における投票取纒方を依頼し、前同趣旨にて金拾万円を、
(七) 同月十日頃において右両名に対し、前同趣旨にて金拾万円を
(八) 同月七日頃同所において、被告人深野七郎に対し、下球磨地方における投票取纒方を依頼し、前同趣旨にて金五万五千円を、
(九) 同月十日頃、同所において右同人に対し、同趣旨にて金九万五千円を、
夫々供与し、
三、被告人犬童俊一は候補者福永一臣の選挙運動総括主宰者である被告人浜砂種光より前記二の(一)及び(五)のごとく、同候補者に当選を得せしめるため、中球磨地方における投票取纒方を依頼され、その運動報酬並びに買収資金として供与されるものであることの情を知りながら、同人から同趣旨にて、
(一) 四月一日頃被告人方別宅において、金拾六万円の供与を受け、
(二) 同月七日頃立宅栄蔵方において、金四万円の供与を受け、
四、被告人深野七郎は前記浜砂種光より前記二の(六)乃至(九)のごとく人吉市(被告人泉と共同で)及び下球磨地方における投票取纒方を依頼され、その報酬並びに買収資金として供与されることの情を知りながら、同人から右趣旨にて
(一) 被告人泉万次郎と共謀の上、
(1)同月七日頃立宅栄蔵方において、金拾万円の供与を受け、
(2)同月十日頃同所において金拾万円の供与を受け、
(二) 単独で、
(1)同月七日頃同所において金五万五千円の供与を受け、
(2)同月十日頃同所において、金九万五千円の供与を受け、
五、被告人泉万治郎は、前記浜砂種光より前示二の(六)及び(七)のごとく、深野七郎と共同で人吉市における投票取纒方を依頼され、前同趣旨で供与されることの情を知りながら、深野と共謀の上
(1)四月七日頃立宅栄蔵方において金拾万円の供与を受け、
(2)同月十日頃同所において金拾万円の供与を受け、
六、被告人恒松良一郎は、前記浜砂種光より前示二の(二)乃至(四)のごとく、富松為五郎と共同で上球磨地方における投票取纒方を依頼され、前同趣旨にて供与されることの情を知りながら、富松と共謀の上、
(1)四月一日頃、犬童俊一方において金拾弐万五千円の供与を受け、
(2)同月七日頃立宅栄蔵方において金五万円の供与を受け、
(3)同月十五日頃同所において金弐万五千円の供与を受け
たものである。
(証拠)
前示一、の事実につき、
一、証人浜砂種光の原審第四回公判調書中の供述(福永関係記録)、
一、同人の司法警察員に対する供述調書(昭和二十八年五月一日附)、
一、同人の検察官に対する各供述調書(同年五月二日附、五月七日附、五月十五日附、五月十六日附、五月十八日附、五月二十日附)、
一、証人田中典次、同吉田富士夫の原審公判調書中の各供述、
一、田中典次の検察官に対する各供述調書(同年五月二日附、五月十三日附、五月十六日附、五月十九日附)、
一、吉田富士夫の検察官に対する各供述調書(同年五月三日附、五月十七日附)、
一、原裁判所の検証調書、
一、原審第五回公判調書(浜砂関係記録)中福永一臣の供述、
一、同人の検察官に対する供述調書(昭和二十八年八月二十八日附)(併合記録)、
一、当審において取調べた犬童俊一の検察官に対する供述調書、(昭和二十八年五月十五日附)
前示二乃至六の事実につき、
一、原審公判調書中証人犬童俊一、同恒松良一郎、同深野七郎、同泉万治郎の各供述(浜砂関係記録)、
一、原審公判調書中証人浜砂種光、同福永一臣の各供述(犬童、深野、泉、恒松関係記録)、
一、被告人等の検察官に対する各供述調書(浜砂種光の五月二十日附、五月二十四日附、五月二十五日附、五月二十六日附、六月二日附。犬童俊一の五月一四日附、五月二十六日附、五月三十日附、五月三十一日附、六月二日附。深野七郎の五月九日附、五月二十日附、五月二十四日附、五月二十九日附、六月一日附。泉万治郎の五月十五日附、五月十九日附、五月二十三日附、五月二十五日附、五月二十六日附、五月三十日附、六月一日附。恒松良一郎の五月二十三日附、五月二十五日附、五月二十六日附、六月二日附)、
一、富松為五郎の検察官に対する各供述調書(同年五月二十五日附、六月二日附)、
一、福永一臣の検察官に対する供述調書(八月二十八日附第二回)、
(法令の適用)
各被告人の金銭供与の各所為につき、
公職選挙選挙法第二百二十一条第一項第一号
同金銭の供与を受けた各所為につき、
前示同法第二百二十一条第一項第四号、第一号
被告人浜砂種光、同田中典次の金銭交付の所為につき、
前示同法第二百二十一条第一項第五号、第一号
各共犯関係につき、
刑法第六十条
併合罪の関係につき、
刑法第四十五条前段(いづれも懲役刑選択)第四十七条、第十条
被告人浜砂以外の各被告人の執行猶予につき、
前示同法第二十五条第一項
被告人田中、吉田、犬童、深野、泉関係の没収並びに追徴につき、
公職選挙法第二百二十四条、
被告人福永関係の訴訟費用につき、
刑事訴訟法第百八十一条第一項
本件公訴事実中、被告人福永一臣は自己に当選を得る目的を以て被告人浜砂種光と共謀の上、
一、芦北郡における選挙運動担当者である被告人田中典次、同吉田富士夫の両名に対し、同地方における投票取纒方を依頼し、その運動に対する報酬並びに選挙人及び他の選挙運動者に対する買収資金とする趣旨にて、昭和二十八年四月十三日頃芦北郡大野村、国鉄白石駅構内において、小田保紀、高野天而を介し、前記吉田富士夫に対し、
(1)金拾万円を供与し、
(2)田中典次に供与することを請託して金五万円を交付し、
二、人吉市及び球磨郡の各地区における担当選挙運動者等に対し投票取纒方を依頼し、
(1)同年四月一日頃、人吉市犬童俊一方別宅において、中球磨地方担当の犬童俊一に対し、その運動報酬並びに選挙人及び他の選挙運動者に対する買収資金として金拾六万円を、
(2)同日頃、同所において上球磨地方担当の恒松良一郎、富松為五郎の両名に対し、前同様の趣旨にて金拾弐万五千円を、
(3)同月七日頃、人吉市立宅栄蔵方において、右両名に対し、前同様の趣旨にて金五万五千円を、
(4)同月十五日頃同所において右両名に対し、前同様の趣旨にて金弐万五千円を、
(5)同月七日頃同所において前記犬童俊一に対し、前同趣旨にて金四万円を、
(6)同日同所において、人吉市を担当の泉万治郎、同深野七郎の両名に対し、同趣旨にて金拾万円を、
(7)同月十日頃同所において、右両名に対し、同趣旨にて金拾万円を、
(8)同月七日頃同所において、下球磨地方担当の深野七郎に対し前同趣旨にて金五万五千円を、
(9)同月十日頃同所において、右同人に対し前同趣旨にて金九万五千円を、
各供与し、
たとの点については、いづれも前に説明したとおり、被告人福永一臣が浜砂種光とこれを謀議したことを認める証拠が十分でないから、その犯罪の証明がないものとして、刑事訴訟法第四百四条第三百三十六条に則り、同被告人に対し無罪の言渡をなすべきものとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)